解っていた。
物事には全て終わりがあるのだということは、十分に理解していた。
この不毛な争いでさえ、どのような結果になったとしても、終わりは必ず訪れるのだと。
解っていたのに、認めたくなかった。
いざ現実を前にして、あふれだすのは後悔。
ああしておけばよかった、こうしておけばよかった、エトセトラ。
――もっと、傍にいたかった
無理だよとリアルは笑う。
そして、その日は訪れる。
とある地方の空港に二人はいた。
目の前の電光掲示板が明滅し、ひとつの飛行機が飛び立ったことを告げる。
もうすぐ時間ですよとの旨を伝えるアナウンスが流れて、知らず手の中のチケットを握り締めた。
「長かったな」
隣りに座る男がぽつりと呟く。
ちらりとその姿を一瞥して、すぐに視線をそらす。
これが最後だと解っているからこそ。
「でも結構、短かったような気もする」
「…どっちだ」
「……本当、どっちらどうな」
苦笑が落ちてきて、顔をしかめた。
大人は嫌いだ。
こんな風に、全てを諦めたように笑う大人は、嫌いだ。
目の前に横たわる境界線と言う名のリアルを、この男も、ましてや自身も排除する術を持ち合わせてはいない。
「ごめん、刹那。やっぱり俺は、お前を手放したくない」
ギュッと、2人の間にあった手が握られる。
痛いくらい強くて、二度と放されないのではと期待してしまうほど硬くて。
あふれだす感情を押し殺すように、長い息を吐いた。
「いっそ、2人で逃げようか」
「…そうだな」
「やけに素直じゃないか」
――最後くらいいいだろう
こぼれそうになった言葉を押しこんで、口を結んだ。
戦争根絶なんて大それたことをやって見せたくせに、この場から逃げるなんてあたかも簡単なことができやしない。
自分自身の身勝手な望みは叶えられない。
不意に、二度目のアナウンスが鳴り響いた。
まだの方はお急ぎください、そんな内容。
「…時間、だな」
「ああ…」
手に込められる力はまだ強く、だからギュッと握り返してみた。
もしこれから、途方もない時間が流れていくのだとしたら、今この瞬間で全てが留まってほしいと、痛切に願った。
けれども望みは叶わない。
視界の端に佇む、黒いスーツに身を包んだ男が、もの言いたげな視線をこちらに寄こしている。
同じくそれに気づいたのか、男は名残惜しそうに手を離すと、ぽんと背を押した。
「じゃあ、な」
「……ああ」
小さな反動に突き動かされるように、椅子から立ち上がる。
傍に置いていた小さな鞄を拾い上げ、その場から離れるべく足を動かす。
立ち止まりたかった。
止まれ。戻れ。と感情がざわめいた。
けれど足は止まらず、徐々に彼から離れていく。
「刹那!」
不意に名を呼ばれ、足を止める。
振り返ることはできなかった。
そんなことをすれば、全てが水の泡になってしまう。
「…愛してる。ずっと、お前だけを」
人目を憚らぬ告白。
けれどそんなこと、自分も彼も気にはしていなかった。
唇をかみしめて歩を進める。
何も言葉を返せなかったけれど、彼にはちゃんと伝わっている。
人が聞けば過信だと笑うだろう事実。
やがて見えてきたゲートの受付の女性に、くしゃくしゃになったチケットを見せる。
ゲートをくぐり振り返ると、椅子の背からのぞく茶色の髪が見えた。
無意識の内に口を開く。
何を言いたかったのかは解らない。
名前を呼びたかったのか。何か伝えたかったのかさえも。
「お急ぎください」
受付の女性の一言に全てはかき消され、彼へと背を向けた。
もう二度と逢えないのだと知っていた。
どんな偶然も、2人を結びつけることはないだろう。
あの男のいない未来を、どうやって生きていけばいいか分からない。
それこそ、生きる理由さえも曖昧だというのに。
それでももしかしたら、何て言う1パーセントにも満たない希望を信じて、明日を生きるしかない。
「さよなら。ロックオン」
誰にも聞こえない言葉を残して、飛行機に乗り込んだ。
―――――
世界に変革をもたらした後、CBが解散になって、トレミー組は万が一にも外部に情報を漏らさないためと、勝手な行動(政府に異を唱えて、ガンダム持ち出して暴れないとか)をしないために、各個人引き離された上、それぞれ監視者がつくという裏設定。
The ご都合主義!
何やら、物凄くシリアスな2人の別れが書きたかったのです…。
だからって腕の痛さに半ば泣きそうになりながら書くなって話ですが…。
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