「兄さんのあれは、家族が殺されてからだな」
5年近く経って、そんな話を聞くとは思わなかった。あの人は俺と同じ顔をしているくせに、妙に神経質で、そして臆病で、強かったよと、彼は言った。そんなこと知っていると、切り捨てることはしなかった。そうすることで、彼と自分の繋がりの深さと、溝の大きさを思い出して、またあの日のように酷く胸が痛むような気がしたから。
「自分の領域に入れたものは凄く大切にする人だったから。大切なものをつくらないようにして、そうやって、傷つくことから逃げたんだろうな」
「それはただ臆病なだけだ」
思わず口を突いて出た言葉。彼の弟は、彼と同じ顔で目をまるくして、それもそうだ、と薄く笑った。
「でもな、人間っていうのは弱い生き物だ。皆、お前みたいに強くないんだよ」
強い、と言う。彼と同じ顔で、彼とは違った笑い方をする男は言う。彼もまた、同じ言葉を言っただろうか。強い、と。刹那・F・セイエイは強い、と言っただろうか。
ありえない。強いわけがない。本当に強いなら、さっさとあんなものさっさと引きちぎっていただろう。そのことに彼が怯えても傷ついても構わない。全てを蹴破ったその後に、自分が彼を癒してやる、それくらいの芸当をやってみせたはずだ。だからそれが出来ない自分はきっと、彼と同じくらい弱い生き物だったのだ。
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