一緒にいられるだけで幸せだった。もう一度会えることをずっと夢見ていたけれど、まさかその願いが本当に叶うとは思わなかった。だから望めばいつでも会える今の状況はまさに至福で、それ以上は何も望まない。ファイとしたい、ということは除いて、だけど。
今日だって同じ場所にいる。それだけでいいと思っていた、ら。
「アイチってほんと欲がないよなぁ」
「え?」
感心したように言われて首を傾げる。何のことだろう。自分は何か会話を聞き逃していたのだろうか。おろおろと辺りを見渡すと、目の前に座っていた三和は苦笑した。
「そこまで驚かなくても」
「えっ……えっと、何の話?」
「アイチは欲がないって話」
繰り返された言葉に再び頭の中で疑問符が踊る。それを知ってか知らずか、三和は勝手に話を進めた。
「もっと甘えてもいいんじゃねーの?」
「甘える?」
「そ」
「どういうこと?」
ますます分からない。困惑を深めるアイチから視線を外した三和は、隣の櫂を見てニヤリと目を細めた。
「なー。櫂?」
「………」
突然話題を振られた櫂は、けれど話自体は聞いていたらしく、大して動じた様子もない。櫂は伏せていた目を開くとまっすぐじっとアイチを見つめる。アイチは困惑し半ばパニック状態に陥りながらも、その視線から逃れることはしなかった。
「イメージしろ」
「何をだよ」
三和の的確なつっこみも、アイチの耳には届かない。イメージ。イメージしろと櫂は言った。イメージ。イメージするんだ。アイチは目を閉じた。真っ暗な瞼の裏にはしかし何も浮かんでは来ない。
あれ、とアイチは首をかしげた。いつもと違って何も浮かんでは来ない。いつもなら鮮明に思い描ける惑星クレイの様子が見えない。そこまで考えてアイチははっと気づいた。動揺しすぎて忘れていた。今はファイト中ではないのだ。ならば何をイメージすればいいのだろう。
「イメージできたか?」
櫂の声がする。暗闇の中ぼんやり櫂の姿が浮かんだ。今はファイト中ではないけれど、櫂がイメージしろと言うのだから、頑張ってイメージしなければ。
「アイチ、お前は今犬だ」
「お前何言ってんの」
犬。犬ということはうぃんがるにライドしているイメージでいいのだろうか。
「お前の飼い主は俺だ」
「もしもーし。櫂さーん」
櫂君が飼い主。アイチは頭にインプットした。
「そして今お前は凄く飼い主に甘えたい」
「聞けよ」
「イメージできたか?」
「う、うん」
「え。アイチ?」
合間合間に三和の声が聞こえた気がしたが、イメージに集中していたアイチにとっては些末事だった。
「いいイメージだ。さあ、飛び込んでこい、アイチ!」
「櫂君!」
「いやちょっ、お前ら…!」
パッと目を開くと、両手を広げた櫂の姿があり、アイチは迷わずその腕の中に飛び込んだ。ぎゅうと抱きつけば、その分だけ櫂も抱き締め返してくれる。あった かい。夢みたいだとアイチは思う。ずっと会いたかった人に会えて、こうやって近くにいることができるなんて。アイチは犬さながらに櫂の胸に頬をすり寄せ た。
「あー、一応聞くけどさ、櫂。何やってんの?」
「お前がアイチを甘やかせと言ったんだろ?」
若干疲れた様子の三和に、さも当然とばかりに櫂は返す。ある意味予想通りだったらしい返答に、三和はただがっくりと項垂れた。
「バカップルめ」
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美坂の中で櫂アイは「このバカップルめ見せつけやがってこのこのっいいぞもっとやれ!」というイメージです。
各キャライメージ。
アイチ:櫂君の言うことなら何でも聞く。乙女。弱気。負け犬属性。櫂君櫂君。
櫂:アイチしか見えてない。色んな意味で馬鹿。ドラゴニックオーバーロード。アイチバカ。THE。きっとツンデレ。彼氏。
三和:いいお兄さん。キャラがぶれる(アニメ)。天然カップルに挟まれると胃痛がしそう。言うよねー。
そんな印象。
ちなみにこの話、櫂にぎゅーと抱きつくアイチのイメージが先行して、でも私のイメージの中の二人ならナチュラルにそんな状況になんねぇよちくしょおおおおと思って考えて、不器用なイメージ厨櫂と盲目なアイチがもたらした結果こうなった。
書いて一夜明けて改めて読んでみるとひでぇぇwwwと思ったけど生存確認のためにあげみたよ。読む人いないだろうけど。
どうでもいいけどいつもよりイメージって言葉が多い気がする。作品柄か。
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