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「 新緑の季節なのに 」

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新緑の季節なのに

2009.05.03 Sunday 15:17

書き忘れていたお花見話
ロク刹です
実は、何が書きたかったのか分からなくなったという残念なお話でもあるのです。

 春だなぁ、と呟いたのはビール片手に桜を見上げる長兄。その前には二人では食べ切れないほどの重箱が並んでいる。長兄の料理の腕を認めている四男は、模試があるとかで悲しそうに家を出ていったし、二男は双子の弟である三男に連れられて姿を消した。長兄曰く、どうせ悪さでもしてんだろ。そんなこと容認していいのか家主。心の中でツッコミを入れながら、結局二人で重箱をつつく現状を喜んで受け入れている。顔には出さないし、絶対長兄に知られるわけにはいかない。そんなことになれば、長兄は目を輝かせて図にのるのだから。

「いつもはチラッとしか見ないが、こうやって花見すんのも風流だよなぁ」

 目を細めて桜を眺める姿はそこそこ様になっているのに、片手に握られているビールの缶が雰囲気をぶち壊す。何処となく親父臭いと感じるのは、ビールを呑む一般の若者達に失礼だろうか。

「ロックオン、親父臭い」

 とりあえず目の前の長兄に言ってみた。すると、長兄はあからさまに傷ついた顔をして、がくりと肩を落とす。

「そりゃないぜ…刹那…」

悲しそうな横顔を見ていると、不意に今朝見た夢を思い出した。広大な 宇宙の中、淡い碧の光に包まれて散ってしまった大切な人。何て縁起の悪い夢だろう。彼は今現在、刹那の目の前で酒をあおっていると言うのに。

「ん? どうした? 刹那」

 目敏くこちらの変化に気付いた長兄が首を傾げる。何でもないと首を振って、取り皿に寄せたものへと箸を伸ばすと、あたたかくて大きな手が刹那の頭を乱暴にかき回した。
 刹那はこの手が好きだ。口に出したことはないけれど。けれど、その欠片が顔に出ているのか、刹那の頭を撫でるロックオンの表情は柔らかい。

「花の薫る春が来て、緑の生い茂る夏が来て、樹々の燃える秋が来て、総てが眠る冬に収束する。そしてまた、春に巡る」

 少し前、テレビドラマの登場人物が言っていた言葉だ。ロックオンは、いったいどんな想いでその言葉を紡いでいるのだろう。

「そうやって、未来永劫時間は流れていく。だから…いつか――」

 言葉が途切れてロックオンを仰ぎ見る。碧の瞳はわずかに陰りを帯びている。刹那は目を見開いた。同じなのだと、漠然と、けれど明確に感じた。何時か置いて行かれるという不安。何時か置いて行ってしまうという不安。それは誰もが少なくとも持っているもので。
 どうして分かったのかは知らない。ロックオンは昔からこういうところがある。兄弟たちの親代わりだったこともあり、親の気持ちなのかもな、と笑っていた。

「ほら、早く喰わないと、双子が帰って来てとられるぞ」

 それは嫌だ。双子の上はともかく、下は刹那の好物を横からとることがしばしばある。腹立たしいことに。
 慌てて箸を伸ばす刹那から手を離したロックオンが、面白そうにこちらを見下ろしている。箸を咥えつつ、恨めしげな視線を送ってみるも、当の本人は眉一つ動かさない。きっと刹那が本気でないと分かっているのだろう。何だか悔しいが。
 けれど、こんな馬鹿みたいな日常がずっと続けばいいのに、と願ってしまった。

 強い風が吹いて樹々がざわめく。煽られた薄紅の花弁がひらひらと舞って、落ちた。
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