旅に出ます。探さないでください。
いっそそんなくだらない書置きがあった方が、何倍もマシだったかもしれない。家に帰ればリビングのテーブルの上に合カギと携帯電話が放置されているよりは。
行きそうな場所は全て探した――と思う。財布も携帯もバイクさえも放置されていたから、それほど遠くには行っていないはずだ。いったいなぜ、どういうつもりで出ていったのかは知らないが。
連絡を取りそうな相手は全て訪ねてみた。けれど、誰も知らないの一点張り。口裏を合わせそうな連中には、半ば以上の脅しをかけてみたけれど、真っ青になりながらも必死で首を振る姿を見れば、本当に知らないのだと解った。
時計の針はどんどん進み、そろそろ日付を跨ぐだろう。腕時計に目を落とすが、あいにくながら電池切れ。携帯電話も先ほどブラックアウトした。
そもそもなぜ自分はこんなにも必死になって捜しているのだろう。
喧嘩したのは今朝方のこと。学校ではお互い見向きもしないで、けれど、部活を終えて戻った部屋にルームメイトの姿はなかった。ただ、それだけ。喧嘩の内容なんて本当にくだらないもの――だったと思う。いや、今考えてみるとあまり自信がない。此方が適当にかわせることでも、相手にとっては重大なこととだということはしばしばあるものだ。
仮に、彼の怒った理由が重大なものだとしても、放っておけば帰って来る。家の解らなくなった犬猫ではない、二本の手と二本の足をもった立派な人間なのだから。それなのに、自分は今こうして、息を切らせて汗水流してただひとつの姿を追っている。
もしかしたらもう部屋に戻っているかもしれない。けれど、合カギは部屋に放置だったから、今頃玄関の扉の前で震えているかもしれない。そう思うのに、直感とも言えるものが「違う」と叫ぶ。彼はまだ、この夜の下にいるのだと。
「……チッ」
思わず零れた舌打ち。最近あまりしていなかったなと、如何でもいいことを考えながら、防波堤の上に腰を下ろす。これだけ捜しても見つからないのなら、本当に出て行ったのかもしれない。
絶望と鈍い痛みを胸に抱えつつ、ふと橋の下へと視線を向ける。するとそこには、月光を微かに受けて輝く金色の髪があった。
瞬時に立ち上がる。誰かが見ていたなら、流石アスリートと褒めたかもしれない。けれど、そんなことはどうでもいい。今は唯、ようやく見つけ出した姿が彼のものであると確認しなければ。一秒でも早く!
「クラウド!」
気づけば叫んでいた。深夜だというのに。そんなキャラじゃないと自覚しているのに。必死で、縋るように叫んだ。
目の前の肩がびくりと震えて、恐る恐る振り返る。信じられないとばかりに、大きく見開かれた瞳に思いがけず、笑みがこぼれた。
暗闇の中、確かに輝いていた光りに。
蛇足
「来るとは思わなかった」
呆然とクラウドは呟いた。曰く、喧嘩した直後、鍵やら色々持って出るのを忘れて、そのまま登校したのだけれど、下校時になって何となく部屋に戻るのは憚られて――あまつさえ、鍵がないから部屋にも入れない。だからぼんやりとその辺りを散策して、この場所に落ち着いた。
日もどっぷりと暮れてしまい、帰るタイミングが見つからなかったのだと続けた。
彼の隣へと腰を下ろすと、安心した所為か一気に疲れが押し寄せてきた。
「…心配した」
「うん」
「捜した」
「…うん」
「……よかった」
「……うん」
恐る恐る、草の上に投げ出された手を掴んでみる。抵抗はなかった。春先にずっと外にいた彼の手は冷たく、けれど火照った己の身体を冷やすには丁度いい。
「明日、さんざんからかわれるんだろうな」
「誰に?」
「バッツとか、ジタンに」
困ったような苦笑が聞こえる。つられるように口元に笑みを添え、彼の方へと頭を預けた。
「スコール?」
「…少しだけ」
「しょうがないな」
変な所で子供だ。そう続いた声に反論しようかと思ったけれど、「ありがとう」付け加えるように聞こえた言葉に、結局口をつぐんで瞳を閉じた。
――――――
高校生パロだと思います。
歳の差?知りません(こら
この2人は無表情に当然のようにいちゃこらすればいいと思う。
何かおかしいか?の勢いでイチャイチャしてればいいと思う。
でも、たまにはウブなのも書きたいとか思ったりも。
私が書くと、獅子も雲も性格が軟化する傾向が…。
お粗末さまでした。
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