彼岸
「お彼岸って牡丹餅や御萩を食べる日なんですよね?」
月明かりが照らす部屋で、微妙に主旨のずれたことを言ってくる馬鹿がいた。
誰にどんな風に吹きこまれたのかは知らないが、流石は食欲魔人と言ったところかと、呆れる。
「少なくとも菓子を食うだけの行事じゃない」
「あれ? 違うんですか?」
驚いたような声に、このモヤシに適当なことを吹き込んだ相手を呪う。
任務帰りで疲れているところに、襲撃を受けて舌打ちしたというのに。
何故また祖国の行事について教えねばならないのか。
「彼岸って言うのは、春と秋にあるんだが、その時分に死者があの世から還ってくるらしい。それで墓参りに行ったり、仏壇に牡丹餅や御萩を供え、後で頂くこともある」
「死んだ人が戻ってくるんですか?」
「らしいな」
軽く相槌。
欠伸を噛み殺して髪を束ねていた紐を引き抜く。
「…死んだ人に逢えるの?」
「知らん。戻ってくるなら、逢えるのかもな」
言ってからはたと気付く。
襲撃時のやや興奮した様子は何処へやら、ただでさえ白い顔は月光を受けて青白く、何の感情も浮かんではいない。
「それでも、僕は逢えないだろうな」
呟くと同時、泣きだしそうに顔を歪めて、唇を震わせて――結局、笑った。
「すみません、暗いこと言って」
声は明るい。
上辺も。
それでも、笑みは奇妙に歪んで。
無意識に伸びた手が触れる直前、子供はギュッと目を閉じた。
悲しみに堪えるように。恐怖に怯えるように。
これだから嫌なんだ。
舌打ちひとつ、手を伸ばす。
強い風が部屋に吹き込んだ。
己の漆黒の髪が、子供から光を奪うように舞い踊る。
何も見えなければいい。
そうすれば、見えないことに怯えることはないのだから。
内心舌打ちする。
この手を放せない自分に。
普段は喧嘩ばかりの相手を、放っておけない自分に。
―――――――
マナの魂ってちゃんとあの世に行ったんだっけ…?
そんなことを考えながら書いてました。
どちらにせよ、彼岸にマナとは逢えない気がしたので…。
久々の神アレはとても楽しくて、ちょっぴり難しくて、ブランクを感じたり(苦笑
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