町外れの廃工場。そこが彼らの城だった。工場内を埋め尽くすほどの人で賑わうその最奥に、城の主は坐していた。電光がまばらである工場内でもひときわ目立つ白い髪。目元を覆う仮面の奥で爛々と輝く瞳は赤。いわゆるアルビノである男が作ったグループ。彼のための城。彼のための兵隊。それが『アルビノ』。
「別に俺は組織だなんだって興味はないんだけどね」
男は肩をすくめる。工場内がざわついたのも一瞬。再び男が話始めようとすれば、皆が息を呑みその一挙手一投足に注目する。
「誰かさんが俺を王様にしたいらしくて。ねぇ?」
瞳を細め、男は傍らに立つ長身の少年を見た。視線を受けた少年は瞳を細める。
「貴方にはその器があります。俺は貴方のその器に惚れたのです。当然でしょう」
「まあ、ハルの言うことも尤もだろう。俺もその点には同意だ。ハルに同意するなんて吐き気がするけどな」
「……シン。それを貴方に言われたくはありません」
ハルと呼ばれた少年は、目の前の男を睨みつけた。そんな二人のやり取りを妨害するように、ふわりと小柄な少年が割り込む。
「はいはーい、そこまでー。ハルもシンもピリピリしちゃってさー。今は身内で争う時じゃないでしょー?」
「…………チッ」
シンは舌打ちするとハルと、割り込んできた少年――ミヤから目を逸らした。三人のやり取りを見ていた男はくつりと喉の奥で笑う。
「さて。それで? 何処を攻めるつもりなの? ハル」
「やる気だね、焔」
ぽんと男の肩に手をおいたのは、場違いな程やわらかい雰囲気に身を包む青年だった。焔と呼ばれた男は気安く触れてきた男に怒るでもなく、微笑を浮かべる。
「当然だ、ミオ。やるからには徹底的に、ね? 俺はそういう性格なの」
「頼もしいよ。まったく」
澪はその口調とは裏腹に楽しそうにくすくすと笑って身を引いた。その場所へと、闇の中からひとつの影が現れる。
「では、カナリアはいかがでしょう」
「な!?」
「シナ……」
「うわぁ、いつもながら突然出てくるねー君」
「それがシナだからねぇ」
焔以外の四人それぞれの反応に目をくれるでもなく、シナは真っ直ぐ焔を見据えた。
「俺は常に焔の傍に在ります」
「はいはい。で、カナリアって?」
しかし焔は慣れているのかそれを軽く流し、ハルへと視線を向ける。ハルはひとつ頷くと口を開いた。
「この地区では我々とほぼ同格の力を有するグループです。カナとリアの兄弟のツイントップです。確かに、シナが言う通り一気にここいらを制圧するなら、カナリアを潰すのが一番でしょう」
「勝算はある?」
「あるよー。ボクとハルの作戦通りにシン達が動けばねー」
「……焔のためならば、どんな命令でも受け入れる」
「必要であるならば、我が身も焔のために」
アルビノ幹部それぞれの言葉に焔は笑みを深くした。
「どうする? 焔」
少し離れたところから訊ねたミオは、けれどもう答えは知っているようでもあった。
「勿論。狩ろう。さあ、楽しいショーの始まりだよ」