切なくて痛くて苦しくて。だけど感じるから生きていられる。暖かさも冷たさも全部、与えられるものなら何だって嬉しい。心地好い。
「おかしいって言われたことがある」
「そうか」
曖昧な相槌も関心の薄い表情も、この胸に燻る何かを焚き付ける。
「俺って、おかしいのかな?」
「さあな」
否定も、肯定も、しない。緩やかな束縛と強引な拒絶の狭間で、息をするような安堵感が身体に染みる。
「僕は別に何だって構わない」
「何だって?」
「お前がお前なら何だっていい」
例えば、人を構成するものは何かと訊かれたら、科学者は大量の素材の名を述べ、心理学者は魂の講義を始めるだろう。理論主義のロマンチストは果たしてどんな答えを出すのだろう。
「お前がここにいて、僕の名を呼び、僕に従う」
「勝手な話だ」
「そう押し付けだ。全て。けれどお前は僕を否定しない」
癪だと首を振れば苦笑が低く響く。
「お前は俺を裏切らないから、俺はお前に従う」
一度も言葉にしたことはないけれど知っているはずだ。深い場所で繋がっているから。過信でも驕りでもない実感。
与えられるものなら何だっていいんだ。それが命令でも。否、命令ならば尚更。必要とされている実感と、信頼されている誇らしさに胸が占拠される。
何だっていい。飴だろうが、鞭だろうが、毒薬だろうが。
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一言コメントには『盲目的な一騎』とありました。
場所は竜宮島の浜辺で多分夜。
時期的には咲良が倒れる直前でしょうか。
酷く美坂らしいSSだと思うと共に、私の中の理想総一像ってこれだよなと感じ、多分FORTUNES辺りを聴いていて思いついたんだろうなと推測します。
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