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「 My dearest vol.4 」

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My dearest vol.4

2012.01.31 Tuesday 03:38

日付跨ぎましたが4話です。
本文末に書いているのですが、この回は登場キャラの「らしくなさ」が大半を占めているのでものすっごく書きづらかったって言い訳しますが、実際はTOLで只管妹を追い掛けていたからです。あっはっは。
今5章始めですが、4章ラストは凄く…物凄くデジャブを感じました。ステラァアアアアアア。

あ、末尾ですが、拍手ぱちぱちありがとうございますー。
拍手があると頑張ろうと思い、ないとだれます。正直ですな←
今拍手お礼があまり書いた記憶のない死ネタなので、お礼としてこれはどうなんだと再び悩み始め、けれど私の頭の中は今Mydearでいっぱいなのでこれ書き終えたから変えようと思います。
拍手お礼のあとがきにある長編のプロットは結構早い段階で没になったりしています。

 
第四章 記憶
 
 アパートについたロックオンは刹那に応急処置を施し、古い知り合いの情報屋の筋を使ってティエリアに連絡をつけた。ティエリアに連絡をとることはある意味一か八かの賭けではあったが、急いで駆け付けたティエリアの蒼白な顔を見て疑惑は払拭された。
 何があったと詰問してくるティエリアを諌め、寝室へと連れていく。古びたベッドに横たわる刹那を見ると、ティエリアはますます青ざめ、ロックオンの言った通り持ってきたらしい医療道具の入ったカバンを開けた。医療分野の知識はないためティエリアが何をしているのかいまひとつ分からなかったが、手慣れた手つきで処置をしているようだったので、刹那の治療ということだけでもティエリアを呼んで正解だったとロックオンは思いこんだ。
 程なくしてティエリアはカバンの口を閉じて立ちあがる。
 
「…命に別状はない。見た目よりは軽傷だ。暫く安静にしていれば大丈夫だろう」
 
 医師免許を持つティエリアの見た手である。ロックオンはひとまず息を吐き、ティエリアを誘って寝室を出た。寝室の扉を背に、キッチンで手を洗ってきたティエリアに向き直る。どこか消沈した面持ちのティエリアはロックオンと目を合わせようとはしなかった。
 一方的にロックオンはいつもと同じように淡々と任務のあらましを説明する。情報漏洩があった可能性、裏切者の可能性、その二つの主観も付け加えて。
 ティエリアは眼鏡のブリッジを押し上げると、懐から一枚のメモリーカードを取り出し机の上に置いた。
 
「今、組織内で内紛が起こっている。前兆がなかったわけではないが、組織の準構成員である貴方や刹那を巻き込んだのはこちらの落ち度だ。すまない。組織は全力を挙げて反乱分子の殲滅にかかっているが少し手こずりそうだ。事態が収拾したら連絡を入れる。それまではここで大人しくしていてくれ」
「ふざけるな!!」
 
 目の前が真っ赤に染まっていた。網膜の裏に焼き付いて離れない。血を流す刹那の姿が。伸ばされた指の冷たい感触が。失われることが酷く恐ろしかった。しかしその理由が分からない。分からないからこそ、それはロックオンの苛立ちに拍車をかけていた。
 
「随分勝手なことを言うじゃねぇか。ここで待機だと?俺らは…いや、刹那はお前らのせいで死ぬところだったんだぞ!!」
 
 組織の一員であるとはいえ、ロックオンや恐らく刹那も組織の正式な構成員ではない。どちらかといえば金で雇われた傭兵に近い立ち位置だ。組織以外からの仕事は受けないと専属契約を交わしているだけの間柄。それなのに内紛に巻き込まれ、この仕事限りとはいえ、一度は背中を預けた相棒を失いかけた。それなのにこの憤りをぶつける先はなく、ただ穴にこもってじっと隠れていろと言われて頷けるはずもない。
 
「…………すまない」
 
 歪められたティエリアの表情に、ロックオンはハッとして怒りにまかせて掴んでいた彼の胸倉を解放した。
 ティエリアは決して表情が豊かな方ではない。そんな彼の感情の機微を何とか察せられるようになったのは本当に最近のことだったし、少しの変化くらいは見逃してしまうことが多い。そんなティエリアがはっきりと苦渋の色を刻んでいた。
 頭からサッと血の気が引く。こんなものはただの八つ当たりでしかないと理性が警鐘を鳴らす。そうだ。これは八つ当たりだ。刹那が自分を庇って怪我を負ったことへの罪悪感の暴走だ。
 グッと手を握りしめる。自分のあまりの無力さに反吐が出そうだった。
 
「…悪い……お前に当たることじゃなかった」
「構わない。結果的に貴方と刹那を追いこんだのは俺だ」
 
 ティエリアもまた似た罪悪感を抱いているのだとその言葉から滲み出ていた。
 
「待機をお願いしたのは、俺自身どの情報が正しいのか十分に把握できていないからだ。仕事を頼もうにもまた先程のような罠である可能性がないとも言えない」
「…あれは罠だったのか」
 
 ティエリアは静かに首肯した。レンズ越しに見える紅い瞳に明確な憎悪を宿して。
 
「組織の戦力を削ることを目的とした罠だ。仕組んだのは先の仕事のターゲットと組織の反乱分子。貴方達が殺したのは恐らく影武者だろう。彼らとうちの組織は長年敵対していたから、その幹部――ターゲットのことだ――を潰すことができればこちらが有利になる。重大な任務だった。だから組織内でも十分力のある暗殺者、貴方と刹那を選任することになった」
「しかしそれが罠だった?」
「そうだ。ターゲットが出席するパーティそれ自体がブラフだったのだろう。会場内には敵の構成員が待機し、貴方達が強襲をかけてきたところを返り討ちにする、そういう計画だったはずだ。しかし向こうが貴方達……特に最近入ったばかりの刹那の顔まで把握しているとは考えにくい。相手も深追いはしてこないだろう。それに、今回の奴らの目的はむしろ………」
 
 一旦言葉を切り、ティエリアは何かを考え込むように口元に手を当てる。けれどすぐに結論を得たのか、今度はきちんとロックオンへと向き直った。
 
「今回の彼らの標的は俺だ」
「お前が?一構成員のお前が何故…」
 
 首を傾げるとため息がひとつ落ちた。そして、隠しているつもりはなかったが、とティエリアは不穏な前置きをする。
 
「俺は組織の頭の子供だ」
「は!?お前…そんな素振り一度も…!」
「俺自身、知ったのは最近のことだ。この組織に入ったのも、親とは関係ない。そもそもが妾の子供だったからな。親からの継承権の類はない。しかし、今回裏切ったのが俺と同じように頭の妾の子供だから、同じ境遇の俺を脅威とみなしたらしい。傍迷惑な話だが」
 
 心底どうでもよさそうに話すティエリアは、確かに組織のトップという地位に興味もなければ、裏切者への同情もないらしい。そう言えば噂によると、頭は若い頃はそれはもう自由奔放だったらしく、正妻以外にも何人も妾を囲っていたらしい。要するに今回の騒動は彼の身から出た錆以外のなにものでもないのだろう。
 
「事情は馬鹿みたいな話だが、情勢は逼迫している。誰が味方なのか分からないし、ボスに忠誠心の薄い連中は簡単に寝返るだろう。うちは余所のファミリーのような掟というものに縛られないからな」
「…それが俺らに待機を命じる理由か」
「それもある、と言っておく。他にあげるとすれば、貴方達が俺への私怨に巻き込まれて命を落としたとなれば、相当目覚めが悪い」
 
 だから、とティエリアは改めて命じる。
 
「暫くの間はここを動かないでくれ。俺への連絡が必要なことがあれば、あの情報屋ではなくアレルヤという名の情報屋を使え。彼は刹那の友人だ。刹那の名を出せば裏切ることはないだろう」
「……分かった」
「掃除に目処が立ったら連絡を入れる。その時は今日の借りを返すために暴れてもらう。そのつもりでいてくれ」
 
 何だかんだ言っても他人の情を解する奴だとロックオンは思う。出会った当初はそれほど他人に興味を持たない人間だった。そんな彼がどういう理由でここまである意味成長したのかは知らないが、今のロックオンにとってはありがたい。
 
「後、それから……」
 
 ティエリアの白い指がすっと、先程テーブルの上に置いたカードを指す。
 
「万が一の可能性を考えて、これは貴方に返しておく」
「カード?」
「コンピューターに差し込んで情報を読み取るタイプの記憶媒体だ。使い方は知っているだろう?」
「ああ」
 
 以前一度使ったことがあった。しかしリーダーとなる機械はこの部屋にはなく、二人の拠点であるアパートに置いている。所有者はティエリアだ。最近一般流通にも乗り出した物だとも聞いた。
 
「それに何が入ってるんだ?」
「……貴方の記憶の鍵だ」
「記憶の鍵?」
 
 突然現れた眉唾ものの言葉に眉間に皺が寄る。ティエリアは決してギャグを好む方ではないから、記憶の鍵というのは本当に言葉通りのものなのだろう。しかし分からない。記憶に鍵をかけるなんて芸当をした覚えはない。
 
「貴方はこの何日かの間に感じることはなかったのか?既視感や違和感、そしてえも言われぬ喪失感を」
「何の、話だ」
「まったく感じなかったのなら、貴方の記憶を操作した彼は随分と腕のいい人物だったということか」
 
 一息吐いて、ティエリアは表情を消す。
 
「こんなもの僕は持っていたくなかった。けれど契約は契約だ。貴方が組織に入る代わりに、僕は貴方の願いを聞いた。ある人物に関する記憶を消して欲しいと言う貴方の願いを聞いた。そして、これが僕が保険で用意しておいた鍵だ。万が一貴方が彼と再会するようなことがあれば、きっと必要になる。そう思って用意した。だが、実際そんなに甘い話ではなかった。違和感も既視感もあまり感じないほど貴方は完璧に彼を忘れていた。そうさせたのは僕だ。彼を見る度に僕は申し訳ないようなそんな罪悪感を抱いていた。本来なら僕が持つべきではない感情。貴方に関わらなければ知ることもなかった感情だ」
 
 早口でまくしたてるティエリアは明らかに平静さを失っていた。欠落した表情とは打って変わって吐き出される感情の濁流に呑まれて、ロックオンは声一つあげることができない。
 
「僕はこの鍵を今貴方に返す。僕がこれを持ったまま死ねば貴方は永遠に記憶を取り戻すことがなくなる。彼に会う前まではそれはそれで運命だと思っていた、しかし、彼に会った今ではそんなことになれば死んでも死にきれない。貴方は確かに自ら望んで記憶を手放した。けれどそれはあの特異な状況がそうさせたのではないかとも僕は思っている。結局は貴方の諦めがそうさせたんだ。それに…これではあまりにも彼が憐れだ」
「…………」
「こんな鍵を作ること自体、貴方にとっては迷惑だろう。けれどこれはきっと貴方にとって幸いになる。貴方は結局、記憶を失っていても彼を大切に思っていることには変わらない。現に貴方は彼が傷ついたことに対して、僕が今まで見たことがないほど激昂していた。それが答えだ。だから僕はこれをここに置いて行く。貴方の選択は間違いだったと、そう、思う」
 
 ティエリアはカードを軽く触れ、すぐさま背を向けた。
 
「では、また」
 
 そうしていつものように颯爽と部屋を出ていく。
 取り残されたロックオンは当然混乱していた。ティエリアの話の半分も理解が出来ない。普段の仮面を引っぺがしてまで内心を吐露したティエリアの言葉を、自分の中の何かが拒絶しようとしているかのようだった。
 ただ、ひとつだけ分かることがある。ティエリアは明言しなかったけれど、言わなかったわけでもない。ロックオンは、自ら望んで自分の中にある刹那の記憶を消したのだと。
 
「どういう…ことだ……」
 
 刹那とは先日任務で鉢合わせするまで会ったことはなかったはずだ(記憶を失っているのなら当然そう感じる)。刹那と初めて会った後感じた、どこかで会った気がするというあれがティエリアの言う既視感なのか(記憶を失っているのなら合点がいく)。
 けれどひとつだけどうしても分からないことがある。それはロックオンが記憶を失っていることを知るティエリアさえ知らないこと。何故、自分は刹那を忘れることを選んだのかという原点の疑問。
 
「――!」
 
 思考の海に沈んでいたロックオンは僅かに反応が遅れた。背後で何か音がした。人の気配を感じる。咄嗟に身構えて振り返ると衰弱しきった刹那の姿があった。そうだ。自分はこの部屋に一人でいたわけではない。が、その事実は同時に別の現実を呼びよせる。
 
「…聞いていたのか」
 
 年下の少年を心配する言葉よりも先に口をついていた。自分を庇って倒れた彼よりも自分のことを優先する。その事実に我が事ながら苛立つ。
 
「…………疑問が解けた」
 
 沈黙の後、刹那はただそう一言言っただけで、よろよろとこちらへ近づいてくる。平静な時の自分なら、慌ててその体を支えベッドへ連れ戻していたことだろう。けれど、理性はとっくに感情に喰い潰されていた。
 
「何で、お前はそんなに冷静でいられるんだ」
「俺には関係の無い話だからだ」
「関係ないわけねぇだろうが!」
 
 ダメだ。止まれ。止まれ。念じる。思う。けれど、止まれない。
 
「俺はお前を自分の意思で忘れた。何故だ。何故そんなことをする必要があった! お前は…お前は俺にとっての何だったって言うんだ!!」
「そんなこと俺の方が聞きたい!!」
 
 ぶつけられた感情に息を呑んだ。目の前の少年の顔が歪むのは、決して傷の痛みだけではないだろう。刹那は叫ぶ。まるで、泣いているかのように。
 
「俺はお前の事を何も知らない! 11年…11年もの間一緒にいたのに、お前の本名さえ知らないんだ!! 突然いなくなって、もう二度と会えないと覚悟した。それでも会えた。やっと会えたと思った。だが、お前は俺を忘れたらしい。俺は…お前に聞きたい。俺はお前にとって何だったんだ!!」
「………っ」
 
 答えられるはずがない。忘れているのだ、ロックオンは。刹那に関する全てを。けれど、忘れているから分からないなどと答えられるはずもない。それはあまりにも不義理だ。
 刹那は傷口を押さえ、は、と息を吐く。立っているのもやっとだとすぐに分かる。それでも刹那は自分の足で立ち、強くロックオンを睨みつける。
 
「お前に言ったところで何の意味もない」
 
 ふ、と目を細めて笑った。まるで何もかも諦めているような顔だった。
 声をかけることも手を差し伸べることもできず、ただ呑まれたようにその場に立ちつくすロックオンをしり目に、刹那はロックオンの隣をすり抜けるとテーブルの上、先程ティエリアが置いて行ったカードへと手を伸ばすと、躊躇いなくそれを真っ二つにへし折った。
 
「なっ!?」
「これがなけれれば思い出さないんだろう?そうならこれでいい。思い出す必要なんてない」
「それはお前の決めることじゃない」
 
 余裕がないまま噛みつくような言葉だった。すると刹那はおかしそうにくすくすと笑い、肩を震わせ、先程とは打って変わって満面の笑みでこちらを見上げた。
 
「ああ、そうだ。お前が決めたことだ」
 
 思考が上手く動かなかった。何故、この少年はこんなにも綺麗に笑えるのだろうか。きっと体だけではなく心までお傷ついているに違いない。それは明らかにロックオンの所為だ。それなのに何故、笑う。
 刹那はカードを机の上に放り捨てると、そのまま体を引きずって部屋から出て行った。それでも、ロックオンは動けなかった。






―――――――
この話はキャラの「らしくなさ」が目立つ回であることを、プロットの段階から把握していました。
それぞれの「らしくなさ」には理由があって、まず最初のティエリアに八つ当たりするロックオンは、刹那が自分を庇って重傷を負ったことへの焦燥感と苛立ち歯がゆさ罪悪感から理性を失っているということ。
次に、感情を吐露するティエリアは、近く自分は内紛で死ぬだろうと思っているので半ばやけっぱちになっており、またロックオンに忘れられていると知った刹那の傷つく姿を目の当たりにして、ロックオンに対して苛立ちが少なからずあったのでその辺が理由になっています。
で、刹那を怒鳴るロックオンは一番作中で書いたと思うのですが、ティエリアに色々暴露されて混乱しているせい。
最後の刹那の理由は今後ちらっと出そうな気もしますが、プロローグ冒頭にある『かつて世界の総ては彼だった』に帰結します。
本当なら作中で書くべきなのですが、ロックオン視点で書いてますから他二人の心情は入らないし、ロックオン自身が気づいていない所を注釈するのも変だしということで、こんな所で暴露。小説の難しいところですねぇ。
この程度はキャラ崩壊なのかしらんと思いながら、ロックオンが刹那の記憶を消して理由が実はまだ明確になっていなかったり(私の中で)するので、ひやひやしております。はい。
 
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