すがりつく。小さな身体に。馬鹿みたいだと自覚しているのに。
拒絶されることはしばしばあって、受け入れられるのはごくまれだ。ただ、どうしようもなく滅入っている時は、まるでそれを察したかのように大人しくしていることもある。野生の獣並みの勘だと言ったら、一週間口を聞いてもらえなかった。それをスメラギに言うと、「あの子は気配に敏感なだけよ」と笑われた。だからそれを野生の勘というのではないだろうか、と云々。
子供体温(と言ったらそれこそ静かに烈火の如く怒り狂われることだろう。絶対に口を滑らせるまい)なのか、刹那を抱きしめていると妙に心地よくて。そのまま眠ってしまいそうになったこともある。それをアレルヤに言ったら何を勘違いしたのか、不潔だとひかれたものだから、何がどうしてそうなるのかと怒鳴って小一時間ほどこんこんと説教したものだ。最終的には理解を得られたものの、最後の最後で「まかり間違えれば犯罪だよね」と言い放った天然を、うっかり狙い撃ちそうになった。
それを横でいいていたクリスティナが「ロックオンって紳士よね。普通は襲っちゃうんじゃない?」と笑って言った。女の子って恐い。それを更に横で聞いていたティエリアは「生物学的に不可能だろう」と冷静に言ってのけた。なるほど確かに、お前の知識はある意味正しいと、ロックオンは何とも言えない顔で無言のまま頷いたのである。
かくして、ある意味公認の関係にある二人である。勿論、刹那はそんなこと知りもしないが。
きっかけは、なかなか打ち解けない刹那を冗談交じりに抱きしめた時のこと。アレルヤはいつもの調子で笑っていたし、ティエリアは心底呆れていた。思いっきり抵抗してくる刹那を抑えつけて抱きこんでいると、その体温が何故か心地良くて、安心した。「俺に触るな」とぎゃんぎゃん騒ぐ刹那の鉄拳を喰らうまでは、だが。
「トランキライザーって知ってるか?」
故郷のニュースを耳にして気持ちが落ち込んでいる時、小さな身体を抱きこんで、戯れのように問いかける。刹那は少し抵抗しようとしたが止めて、黙した。
「精神安定剤のことだ。今の俺にとってのお前みたいなもんだな」
「…俺は薬ではない」
「知ってるよ」
意味が通じているのかいないのか、ロックオンは苦笑した。
「お前は何で人に触られるのを嫌うんだ?」
「触られたくない。それだけだ」
「なら、俺は?」
「………」
諦めた、とか、慣れた、とか、そんな言葉がくるだろうと思ったのに、意外にも刹那は黙る。不思議に思って首を傾げると、刹那はもぞもぞと動き、ロックオンを見上げた。赤い目がじぃっとこちらを見ている。
「お前が、死にそうだったから」
「………」
ロックオンは言葉も無かった。情けないとかそんな事を考えることも無く、こんな子供にまで察せられるほど、己はこの子に依存していたのかと、ただ自覚した。
「確かに。お前がいなかった死んでるよ、俺は」
苦笑を滲ませた言葉に、刹那は目を大きく見開き、その隙に薄く開いた唇に口づけた。
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