外付けHDDを買いました。1Tもあればもう何も恐くない。むしろ、外付けの方メインで使うって手もありだなと思ったのですが、その場合外付けが壊れた場合の恐怖を考えるとgkbrでした。
犬と猫の形をしたしめじが画面をうようよしている中で書くような話じゃないよなって書き始める前から気付いてた。犬の方がどんどん増えるから愛くるしいのがぴょんぴょんブラウザに飛びついてきて、美坂は悶え苦しんで死にそうです。
ロックオンと森の意思は微妙にリンクしたままです。刹那とはそもそもリンクしてなくて、水晶時代に森の意思の考えが流れ込んでいただけ、という出番のない設定があります。
3話は後2本くらいで、4話がいよいよクライマックス、という感じです。
誰かと一緒に旅をしたことがなかった。軍に属する前まではずっと村にいたし、属してからも遠征がなければ詰め所を離れることは少なかった。遠征は大人数で旅をすると言えなくもないが、あれは重い規律の中で統制をとってやるものであり、自由気儘な現在の旅とは似ても似つかぬものである。
だから旅人は、果たしてこの少年との二人旅がどのようなものになるのか、皆目見当もつかなかった。
1人増えると言うことは携行する食料も増やさなければならないということだ。とりあえず、南砦で何か補給できないだろうかと考えて、旅人ははたと気づいた。この長年水晶に囚われていたのであろう少年は、砦の通行許可証どころか身分証明書すら持ち合わせてはいない。旅人がその事実に気付いたのは、砦を護る門番の姿を視界に捉えた頃だった。
ここで引き返せばただでさえ身分の怪しさが際立ってしまう(何しろ旅人自身の証明書は国が発行した偽りの身分であり、少年には身分と呼べるものさえない)という危惧があり、旅人は内心冷や汗をかきながら、けれど表には全く表わさず砦へと一歩一歩近づいて行った。きっと少し離れて歩く少年は、あの砦を抜けるのに証書が必要だということさえ知らないだろう。
旅人が門へと辿りつくと、門番はおや、と首を傾げた。
「旅人さんは2人連れだったかな?」
案の定の質問である。ここに立つ門番が、せめて旅人が初めて訪れた時とは違う人物であったなら、言い訳もできたかもしれないが、さてどうしたものか。
「あー…前来た時は途中で体調崩してさ、砦で薬を分けてもらって戻っていたんだ」
我ながら苦しい、苦しすぎる言い訳だと旅人にも分かっていた。だのに、門番はそうだったのか!と驚くと、少年の方を見て目を細める。
「大変だったなぁ、坊主」
「…………」
少年は何も言わず、門番の方を見てもいなかった。旅人はそこに対しても、人見知りなもんで、とフォローを入れるはめになる。
門番は大きく頷くと門を開けて、二人を砦内へ導いた。正直かなりザルな警備体制である。
この砦の先は国外。未開の地、とも呼ばれる場所である。そのような場所に赴く酔狂な、はたまた無謀な人間など、彼らにとってはあまり興味がないのかもしれない。この場所は砦なのである。即ち、外敵の国内への侵入を防ぐための場所。好き好んで出ていくのなら、放っておけ、とでも考えているのかもしれない。と、旅人は無理やり己を納得させた。彼らにまで何らかの森の力が及んでいると考えるのは、少し背筋が凍る話である。
旅人は砦に入るとまず、前回も訪れた宿泊施設へと赴いた。少年も黙ってついてくる。
そこには依然女将の姿があったが、二人連れの商人の姿はどこにもなかった。
「あらあら、タイミングがいいね、旅人さん」
挨拶もそこそこ、女将が笑顔で旅人たちを迎え入れる。
「丁度さっき霧が晴れたんだよ。商人さんたちは勇んで飛び出していったよ」
「そりゃいい」
旅人は頷き、やはりあの霧が森の力によるものだと知って、苦い気持ちになる。霧が契約者の道を塞ぐものであるならば、何故今このタイミングで霧が晴れたのか。考えるまでもない。この先へ進むこと。それが森の意思が契約者へと望むことなのだろう。
「水や食料…後、人1人分の旅の仕度なんてものがあったら分けてもらえないか?」
「別にかまわないよ。勿論、お代は頂くけど」
気前のいい女将に、旅人はひとつ頷き懐から革袋を取り出した。その中には皇帝から直接賜った旅の資金が収められている。口止めの代金か、殺戮の報酬か、あまり考えたくはない薄汚れた金だ。
旅人は食料を補給し、様々な用具を入れた袋を少年に背負わせた。
「それはお前の分だ。しっかり持ってろよ」
「分かった」
少年は無感動に頷く。もしかしたら、あの小屋の前で会話して以来の会話かもしれない。もっとコミュニケーションとやらが必要だろうかと旅人は考える。果たして、そこまでしてやる義理が自分にあるのだろうか、とも疑問に思いながら。
「はい、これ」
思案する旅人の前に、女将は一枚の羊皮紙を差し出した。旅人は首を傾げつつそれを受け取る。
「何だ?これは」
「国境を抜けてからの地図だよ」
地図、と女将が言うそれは、少々おおざっぱであることを除けば、確かにどこからどう見ても地図である。しかし旅人がこれから向かう地は未開の地のはずだ。それなのに何故こんな地図が用意されているのだろう。
旅人の疑問はここに来た多くの者が思うことなのだろう。女将は心得ているとばかりに口を開く。
「この先の地形はね、変わるんだよ。自然の力でどうこうってレベルじゃなくね」
「どういうことだ?」
「荒れ地の中に湖が出来たり、川だった所が野原になったり、そう言ったレベルで変わるんだ」
人智を超えている話だ。だがそのような力があることを、旅人は知っている。だから馬鹿らしいと笑うこともできない。
「変わった学者さんもいてね、その人が地形が変わるたびにこうして地図を作ってくれるんだよ」
「だが、砦の向こうは一応他国なんだろ?」
「他国ったって、どこの国のもんでもないし、元々はこの国の領土なんだよ。ただ、こっから先は昔からもよく地形が変わるもんだから、気味悪がった皇帝が地形が変わる場所と変わらない場所の丁度間にこの砦を築いて、砦から北は領土で南は知らないって言ったんだって。そんな得体の知れないところで何が起こっても皇国は知らないぞ、って話さ」
「俺は昔帝都にいたが、そんな話聞いたこともないぜ?」
「そりゃそうさ。この話はこの地域にだけ残っている話だからね。地形が変わるってのも、実際見た奴じゃなきゃ、信じないだろ?」
違いない、と旅人は頷いた。そんな旅人の横で、少年はじっと女将を見上げていた。
「昔この辺りは森だったから、森の神秘の名残だーなんて言う奴もいるくらいだよ」
女将は摩訶不思議な出来事を笑い飛ばしてしまう。恐らく、ここいらに住んでいる(と言っても、この砦くらいしかまともに人が住んでいる場所はないが)人間にとってはそれくらい日常に溶け込んだ出来事なのだろう。地形が、変わってしまうことくらい。
『大地を変えるには多くの力が必要だ』
頭の中に森の意思の声が響いた。旅人は一度目を伏せ沸き上がって来た得体の知れない感情を押し殺し、再び目を開けた時は女将に軽く笑みさえ向けて、別れを告げた。
砦を抜けたそこはまた果ての無い荒野が広がっていたが、むき出しになった大地に、再び少年が目を輝かせたのは言うまでもない。まるで、見るもの全てが宝物とでも思っているかのようだと、旅人は内心苦笑したのだった。
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